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ルイズの身嗜みが終わり、二人そろい部屋を出る。 すると同じタイミングで横の部屋が開いた。 「あら?ルイズ、おはよう」 赤い髪を掻き上げながら挨拶をする少女。 「……おはよう。キュルケ」 朝っぱらから嫌なモノ見た、とでもいいたげに挨拶するルイズ。 ルイズの視線をアヴドゥルは追ってみる……納得いった。 良く言っても『慎ましやかな丘』であるルイズ。 一方、控えめに言っても『山脈』のキュルケ。 戦力の差は歴然であった! アヴドゥルが生温かい視線をルイズに送っているとキュルケが観察するように見てくる。 「ふ~ん…本当に平民を召喚したんだ。…………逞しそうだけどタイプじゃないわね」 「ちょっと!勝手に人の使い魔、見ないでよ!」 ジロジロとアヴドゥルを見られ、警戒したのかルイズが二人の間を遮る様に立つ。 「…ぷッ」 「へ?」 そんなルイズがツボに入ったのか、キュルケの笑い声が廊下に響く。 「あっはっは!平民なんて凄いじゃないwさすがね~w」 明らかにからかわれている! ルイズは怒りに震える拳を握り締める。 (……いつか覚えてなさいよ~) しかし、召喚したのは自分のため何も言い返せない。 「使い魔ってのはね、この子みたいのを言うのよ。フレイム!」 ピンッ!っという指パッチンの後、キュルケの部屋から赤く大きなトカゲらしきモノが出てくる。 「……ほう」 思わず感嘆の声が出るアヴドゥル。 今までカブトムシのようなスタンドなど、変わった生物?を色々見てきた。 昨日は旋回する竜らしき生物も見た。 しかし! 自分と同じ火の属性の大トカゲ……いや『ヒトカゲ』はそれら以上の感動を与えてくれた。 キュルケはルイズに使い魔自慢を言っている。 それに別段興味もなかったアヴドゥルはフレイムに集中していた。 すると、使い魔効果かは知らないが微妙な意思疎通ができた。 「きゅるきゅる?」 「アヴドゥルだ」 「きゅる!きゅるきゅる」 「ああ、よろしく頼む」 使い魔組みは主人と正反対に、仲良く挨拶を交し合っていた。 ようやく話が終わったのか、両主人がフレイムの頭を撫でているアヴドゥルに気付く。 「あら?フレイムが私以外に触らせるなんて」 「アヴドゥル!ツェルプストーの使い魔なんかと馴れ合わないの!」 廊下に響くルイズの怒声。 それを聞いたキュルケは呆れの入った溜息と共に、アヴドゥルに一言告げる。 「あなたも癇癪持ちの主人を持って大変ね、嫌になったら私のとこに来なさい。いつでも雇ってあげるわ」 (ルイズへの嫌がらせだけど) その言葉を最後に、じゃッあね~っと、ドップラー効果を活用しながら去っていくキュルケを、親の敵の如く睨み付けるルイズ。 「キュルケのやつ~。自分がちょっとサラマンダーなんか引いたからって自慢しちゃって~………胸……飾り……(ぶつぶつ)」 プルプル震えながらキュルケへの怨みを語る。 ある程度落ち着いたのか、今度はアヴドゥルに視線を向けてきた。 (全部コイツがいけないのよ!なんで愚者な犬や、ホル~スな隼じゃないのよ!) 睨み付けながら考えることは、完全な八つ当たりだ。 だが、使い魔を引いたのはルイズ自身。 コレを当り散らすのを、貴族としての…いや、ルイズのプライドが押し止めた。 「もういい。食事に行くわよ!」 ぶっきらぼうにいい先を行くルイズ。 背中からまだ、腹に据えかねているのが分かったアヴドゥルは黙って付いていった。 ルイズの『約束された勝利(主従関係)』が待つ食堂へ。
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食事は特に何事もなく済んだ。 アルヴィーズの食堂の銅像は動くらしい、ぜひみてみたいモノだ。 食堂に入った途端に視線がぼくらに向くが、ルイズはそれら全てを軽やかにスルーした。 当然ぼくもそれに習ってスルーする。 「引いて」 「それくらい自分でやれ」 と言いながらも椅子を引いて座らせてやる。 テーブルはとてつもなくでかい、百人がけくらいのテーブルか。 まぁ食堂のテーブルだとこんなもんかと思いながら厨房へ向かう。 「赤ん坊と一緒に何かもらってくるよ」 何か言い足そうにしているルイズに気付かないふりをした。 どうせ主としての威厳を保つために小細工でもしようとしたのだろう。 しかしそんな事はぼくにはお見通しだ。 この岸辺 露伴容赦せんっ! 壇上で教鞭を執っている中年女性はシュヴルーズと言うらしい。 土のトライアングルメイジ。トライアングルは属性を三つ足すことが出来るメイジとのことだ。 最初にルイズを読んだときにそんなことを書いてあったことを思い出す。 ちなみにぼくの御主人は一つも足せない、故に「ゼロ」だと言うことは既に把握している。 そのため、あのデブが言ってたゼロの意味を今更訊くことはしない。 無駄だからな。 魔法を使おうとすると爆発するらしい。まるで吉良だな。 シュヴルーズが小石を教卓の上に置いて杖を振るうと、石ころがキラキラと輝く金属へと変化した。 おぉ、素晴らしい。それが錬金か、興味深い。 ん? キュルケがその金色を見て乗り出して「ゴールドか」と訊いている、俗物か。 キュルケの問いにシュヴルーズは真鍮だと応える。 どうやら金はスクウェアでないと出来ないらしい。 その辺りは少々詳しく問いつめたいな。 合金である真鍮は可能で、単一元素金属である金へは出来ない理由が不明瞭だ。 貴金属だからとか価値が高いとか希少だからと言った理屈はぼくら人間による感覚でしかない。 物質としてみるならば全てはすべからく同一の価値であるはずなのだから。 モノの価値は人が見出すモノである。それはどんなモノでも一緒だと思う。 シュヴルーズがルイズを指名して前に出て錬金するようにいった。 当然全員恐怖におののく。爆発するのだから仕方ないだろう。 「やります、やらせてください!」 キュルケが説得したが逆効果になったようだ。ルイズは半ば意地になって席を立ち、階段を下りていく。 生徒達がみんな一斉に机の下に隠れだす、ぼくもそろそろ避難しておこうか。 ふと、一際大きな杖を持った少女が人知れず外へ出て行くのが見えた。 そうだな、外が一番安全だろう。 それに、一人だけ出ていくなら本にするチャンスだ、ぜひ読ませてもらおう。 『ヘブンズ・ドアーーーッ。自身と露伴を透明にする!』 腕の中の赤ん坊に、そう書き込んだ。 赤ん坊のスタンド。『アクトン・ベイビー』はモノを透明、厳密に言えば不可視化させるスタンドだ。 その効果範囲は自分中心。されどその効果範囲はストレスや緊張で広がったと、ジョースターさんや仗助は言っていた。 ならば、ぼくの体まで範囲にすることが可能だと思っていたが、予想はばっちりだった。 赤ん坊故に制御できないスタンドだ。 こちらの世界に飛ばした時も、赤ん坊は自分の体だけ範囲にしていた。 一緒にいたのがぼくでほんとうに良かったと思う。ただ一言、赤ん坊に『スタンド能力を使えない』と書き込むだけで十分だからな。 一旦『透明になっても岸辺露伴には見えるようにする』と書こうかと思ったが。他の人に見えなくて巻き添えを食らったりしたら大変だから断念した。 そう、丁度背後から聞こえる爆発音なんかに巻き込まれたりしたら、ね。 それにしても少女はどこへ行こうというのだろうか。 見えない状態になったまま、後を付ける。 床は石造りなため、足音がコツコツと響く。 時折少女は背後を振り返って怪訝そうに振り返る。 なかなか気配に敏感みたいだ、それとも靴音が聞こえるのだろうか。 しかし腕に赤ん坊を抱いているから靴を脱ぐ訳にもいかない。 コツ、コツ、コツ、コツ、コツ。 コツ、コツ、コツ、コツ、コツ。 それにしてもずいぶん大きい杖だ、しかしそれでこそ魔法使いと言った風情がある。 コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ。 コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ。 おっと、考え事をしてしまった所為で止まるのが一歩おくれてしまった。 タバサは、図書館へ向かっていた。 あのヴァリエールの魔法が失敗するは自明の理、至近距離で爆発を喰らえばあの先生はただでは済まないだろう。 それに教室も同じく、残りの授業なんて出来るはずもなく中止になるはずだ。 ならばあの場に留まっている必要もなく、図書館で自習をしようと、教室を出たのだが。 なんだかおかしい。 立ち止まって背後に振り返るが、聞こえてくるのは爆発の残響だけ。 案の定ヴァリエールは失敗したようだ。しかしその事は今はどうでも良い。 何かがおかしい。何か足音が妙に響いているような気がする。 普段はこんなに響いている記憶はないのだが、気にしすぎだろうか。 今通った道を凝視するが、何も見えない。 やはり気のせいのようだ。 タバサはそう納得して再び歩き出す。 しばらく歩いたが、やっぱりおかしい。 ピタリと止まった、その時、違和感は現実となって襲ってきた。 コツ。と足音が一つ、多く…………。 「どこいったのよあいつはっ!」 メメタァに破壊された教室を、一人で片付けているのは我らがルイズ・ド・ラ・ヴァリエールである。 錬金の失敗によって破壊された教室を片付けるように言われた。 もちろん魔法を使わずに、とのことだが元々魔法の使えないルイズにはそんな制約はなんの意味もない。 が、一人でやるとなったら話は別だ。 気付いたら露伴がいなくなっていたのだ。席を立って教卓の前に行くまでは確実にいたはずなのに。 「どこいったのよあいつはっ、もーーーー。もーーーーーっ。もーーーーーーっ!」 地団駄を踏むが、いないモノはいないのだからしょうがない。 片付け完了が長引くだけだ、ルイズもそれを理解しているのだろうが、ヒートアップとクールダウンを繰り返している。 「どこ行ったのよあいつはーーーーーーっ!」 ルイズの叫びは、教室の壁に虚しく吸い込まれた。 「なるほど、図書館か」 突然背後から聞こえてきた声に、柄にもなくタバサは飛び退いて杖を構えた。 構えた先にいたのは、赤ん坊を抱いた露伴。 その姿を認めると、杖を引いた。 「いや、教室を出て行くところが見えたので少々気になってね。悪いけど尾行けさせてもらったんだ」 「……貴方は……」 「岸辺 露伴だ。一応ルイズの使い魔と言うことになっている。こっちは静・ジョースター」 露伴がそう紹介すると、静はタイミング良く「きゃは」と笑った。 「………何か用」 「? 君は何を言っているんだ。理由はさっき言ったじゃないか」 露伴が変なモノを見るような目でタバサに返す。 要するに用はない。 「……どうやって」 タバサは、露伴がどうやって隠れて後を付けてきたのかが気になった。 しかしタバサのその質問を無視しつつ、その腕の静をタバサに押しつけて本を抜き取った。 あいた左手で本を開き、右手でペラペラとページをめくる。 しかし、その瞳は読んでいるようには全く見えず。ただ流しているだけに見えた。実際その通りだが。 「読めないな……言葉が通じているのに文字は読めない。謎だな、召喚魔法にその辺りの理由があるのか………」 「質問に答え……」 『ヘブンズ・ドアァーーーーッ!』 タバサの腕から静を返してもらいながら、露伴はチカラを発動する。 能力の発動とともに、タバサの全身が弛緩し崩れ落ちた。 タバサが崩れ落ちる音は静寂な図書館に割合大きな音を響かせた。 司書の教員や、自習をしていた生徒達からの視線が注がれる。 「いや、なんでもない。ちょっと立ちくらみしたみたいだ」 露伴がそう言うと、ソレで納得したように生徒達は再び勉強に向かう。 「さて」 一番近くの椅子を引いて、そこにタバサを座らせる。 しかしその体に力は入っている様子はなく、だらりとした手の平からは杖が床に転がった。 静をそのテーブルの上に寝転がせ、タバサの杖を右手で持ち、 露伴はゆっくりとページを開いた。
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ベッドの上に寝転がり枕下に本を広げる。 いつ果てるとも知らない白紙の祈祷書との睨めっこ。 必要最低限の時間を除いて全ての時間を詔の作成に当てている。 しかし、それでも一向に節どころか句さえも思い浮かばない。 そして、ついには睡眠時間を削っての作業に入っていた。 眼は虚ろ、髪を振り乱し、かつての麗しい彼女の姿は失われていた。 そんな状態でマトモな詔が浮かぶ筈はないのだが、 今の彼女にはそんな単純な判断も出来なくなっていた。 まずは四大系統に対する感謝の言葉を韻を踏みながら詩的に表現。 要は各系統のイメージを形にすればいいのよね。 えっと…火は熱い、水は冷たい、風は涼しい、土は固い。 思いついた通りにノートに書き記してからビリビリと破り取る。 書いている時は気付かずとも再度目を通すとダメなのがすぐ分かる。 いわゆる客観的な視点というヤツだろうか。 いや、それ以前に書いた内容が子供の作文以下っていうのはどうだろうか。 そもそも四大系統に対する概念が曖昧すぎる。 もっと身近にいる人物の系統でイメージすればいいのだ。 そう、例えば…風は無口、火は色ボケ、水は色ボケ、土はただのボケ。 あ、火と水が被った。それに、これじゃただの悪口にしかなってない。 何で私の周りにマトモな人間はいないのだろうと、ぶつくさノートを破きながら文句を呟く。 そもそも人で考えるからおかしくなるのだ。 純粋に系統だけで考えるなら使い魔の方が適任だ。 よし、なんとなくイメージが沸いてきたわよ。 火はきゅるきゅる、風はきゅいきゅい、水はげこげこ、土は…もぐもぐ? って、これじゃあ鳴き声を並べただけじゃない! こんなの提出したら末代まで笑いものになるわよ。 よし、気を取り直して再挑戦。 火は影が薄い、風は皆の馬車代わり、土は…。 そこまでノートに書き留めて破き捨てる。 そうよね。マトモじゃない主人の使い魔だもの。 ああ、私ってばなんて巡り合わせが悪いのかしら…。 「火はボウボウ、水はバシャバシャ、風はビュウビュウ、土は……」 壊れかけた言動を繰り返すミス・ヴァリエール。 それを遠見の鏡で見ながらオスマンは溜息をついた。 やはり早めに伝えておいて良かった。 あまり詩的な表現は得意そうではなかったので考える時間を多くしたのだが、 缶詰になった所でいい詔は生まれまい。 せっかく時間があるのだから使い魔と気分転換にでも行ってくれば良かったのだが。 不安を紛らわすようにオスマンは一人パイプを吹かす。 それを咎める秘書は今はいない。 生徒達が里帰りしている間もミス・ロングビルは残っていた。 彼女の故郷がどこにあるのかは知らないし、 ミス・ヴァリエールのように帰りづらい理由もあるのかもしれない。 しかし、ずっと働き詰めというのは酷と気に掛けていたオスマンは彼女に休暇を勧めた。 だが、まだ決心はつかないようで彼女は学院に残っている。 落ち着かないんで、とりあえず秘書の仕事の方は休んで貰っているが。 そして同様に休暇を勧めたミスタ・コルベールは、 かねてから予定していた秘宝探しの旅に出て行った。 時間がないからこそ気分転換を味わって貰いたいものだ。 しかし宝探しとは、子供心というのはいくつになっても変わらない。 儂も若い頃は冒険に心を躍らせたものだ。 群がるドラゴンどもを千切っては投げ千切っては投げの大活躍。 それを自伝にしたら全63巻ぐらいはいくんじゃなかろうか。 題して『オスマンの奇妙な冒険』。 むむ、なんだか爆発的ヒットの予感がしてきたぞ。 思い立ったが吉日。さっそく執筆に取り掛かったオールド・オスマンが、 自分の文才の無さに気付いたのは数時間後に文章を読み直した時の事であった。 「…くぅん」 タルブ村に向かう馬車の中で彼が切ない声を上げる。 果たしてルイズは大丈夫なのだろうか。 朝一人で起きれるのか、ちゃんとご飯は食べているのか、色々と不安で仕方なかった。 なんか主と使い魔の立場が逆転してるが気のせいだろうとデルフは黙する。 「もうすぐですから我慢していてくださいね」 それを馬車旅に飽きてしまったと勘違いしたシエスタがフォローする。 まあ、それも間違いではない。ここ最近、馬車での移動が多かったのも確かだ。 風を切るように飛ぶシルフィードの背と違い、ゴトゴト揺られて走る馬車はどこか好きになれない。 ずっと前、まだ向こうにいた頃にもこうして運ばれていた。 窓も無い鉄の車両の中、自分は檻に入れられて何も分からないまま連れて行かれたのだ、 あの冷たく無機質な研究所の中へと…。 電車がレールの上しか走れないように、自分の運命も定められていた……この奇跡が起きるまでは。 「あ。見えましたよ! あれが私の故郷です」 シエスタの言葉に反応しピクリと耳が動く。 ようやく辿り着いたタルブ村は本当に田舎だった。 しかし彼にとっては物珍しく、それに何故だか心が和んだ。 シエスタと父親が再会を喜ぶ横で、水を差さないように探索に乗り出す。 ふんふんと鼻を鳴らし、あちこちの匂いを嗅いで回る。 その彼の上に影が差した。 見上げればそこにはコルベール先生の姿。 だけど先生がこんな所にいる訳はないから良く似た誰かなのだろう。 世界には似た人が三人居るらしいし……あ、匂いまでそっくりだ。 「君はミス・ヴァリエールの使い魔の…。ここで何しているのかね?」 あ、声も似てる。それに自分の事も知ってるなんて、ますますコルベール先生そのものだ。 「相棒。長旅の連続で疲れてるのは分かるけどよ…そろそろ目を覚ましてくれ」 運ばれてきた鍋を囲みながら一行は歓談に沸く。 勿論、話題の中心はコルベールがここに来た目的についてだった。 「“竜の羽衣”ですか?」 「そうです。それを使えば自由に空を飛びまわれると聞き及んだので」 自分の問いに目を輝かせて答えるコルベールにシエスタが少し苦笑いを浮かべる。 彼の言う“竜の羽衣”とは自分の曾祖父の持ち込んだ物だ。 曾祖父は立派な人物ではあったが変わり者という認識は誰もが持っていた。 一度だけ“竜の羽衣”を見せて貰った事があったが、よく分からないガラクタだった。 そんな物を見せても落胆させるだけだとシエスタがやんわりと否定する。 「でも、アレはマジックアイテムとかじゃないですよ」 「…いや、だからこそ探しに来たんじゃねえのか?」 「はい。推察の通りです」 かなり省略したデルフの言葉をコルベールが肯定する。 意味が分からずシエスタは目を丸くさせる。 マジックアイテムでもなく、人間を自由に飛びまわらせるアイテム。 そんな物は“この世界”には存在しない。 だが、別の世界…相棒が来た世界ならばそういう物があってもおかしくはない。 そして、それに使われているのは魔法ではなく科学技術。 そこから得られる知識はコルベールにとっては何よりの財宝なのだ。 その隣で、彼はお椀に盛られた『ヨシェナヴェ』をガツガツと頬張る。 彼にとっては興味の無い話だったし、想像以上に料理は美味しかった。 しかし彼とは無関係な話ではなかった。 コルベールが注目したのはもう一点。 竜の羽衣の持ち主はそれを使ってこの世界に現れたという点だ。 彼や『異世界の書物』を初め、こちらに来るのは召喚されるケースがほとんどだ。 なのに、その人物は召喚されずに異世界から現れたのだ。 そこに彼を元の世界に帰す手掛かりがあるのではないかとコルベールは予想していた。 そして奇しくもその予想は的中する事となった。 「こちらです」 シエスタが案内する先には奇妙な形の寺院。 丸木を組んで形にしたような門。 何かで白く塗り固めた壁。 縄を巻いて左右に広げ紙を吊るした飾り。 なるほど。これならば風変わりな人物と言われるのも仕方ない。 今までに見た事もない物を拝んでいれば怪しまれるだろう。 だが、これが異世界の風習ないしは宗教だとすれば辻褄は合う。 期待を胸にコルベールは更に足を進める。 そして、不意に彼の足が止まった。 彼の眼前には緑に塗装された異形の巨体。 これを何と表現すればいいのかコルベールは思い付かない。 「相棒、これは……」 デルフの問いに答えず彼は機体へと前足を伸ばす。 確信があった訳じゃない、ただ漠然とした予感があった。 それを裏付けるように彼のルーンが輝き始める。 まるで自分の手足のように末端に至るまで意思が通る。 『零式艦上戦闘機』……それが“竜の羽衣”の正体だった。 「素晴らしい! つまり、これがあればメイジでなくとも空を飛べるのですね?」 「それがよ、相棒によると燃料…風石みたいなもんが無いから飛べないらしいぜ」 デルフの通訳を介し、目の前の物が空を飛ぶ機械と説明した。 コルベール先生が喜んでくれるのは嬉しいが、使い方が分かっても自分では動かせない。 てっきり失望するものだと思っていたコルベールだったが熱は収まるどころか激しさを増す。 「いやいや、これの動かし方さえ彼から教えて貰えば大丈夫。 燃料の方もまるっきり未知の物質という訳ではないようですから錬金で作り出せるでしょう。 それに飛べなくとも、ここから得られる技術はとても貴重な物ですよ!」 もう喜色満面のコルベールは買って貰ったばかりの玩具のように戦闘機を触りまくる。 正直、彼の技術に対する執着は凄いと思った。 彼なら必ずこの戦闘機を空へと運ぶだろう。 そして、いつの日か自分で飛行機を作り出し自由に舞うだろう。 それは人間にしか成し得ない偉大な奇跡。 ルイズとは違う人間の強さを垣間見た瞬間であった。 シエスタの父は呆気ないほど簡単に“竜の羽衣”を譲ってくれた。 価値の分からない人間が持つより分かる人間の方が良い。 それにシエスタを救ってくれた恩人へのお返しになるなら安い物だと笑っていた。 ただ祖父の遺言である“本来の持ち主への返却”は果たして欲しいと付け加えられた。 それにコルベールは同意し“竜の羽衣”は彼の手に渡った。 「ま、どうせ相棒には必要ない物だしな」 自慢の交渉術や唸るほどの金を保有していたデルフがつまらなそうに呟く。 それを聞き流しながら、彼は僅かな疑惑を感じていた。 何でそんな事を考えたのかは判らない。 ただ、なんとなく彼を見ているとそう思えて仕方がないのだ。 「ふう…ようやく運ぶ目処が立ったよ」 運搬の手続きを終えたコルベール先生が疲れたように隣に腰を下ろす。 その彼の顔を、伏せたままの姿勢で彼が見上げる。 確かに疲労の色は出ているが、それ以上に満足そうだった。 不意にコルベールが口を開く。 「知っているかい? 彼女の曾お爺さんはアレに乗ってやって来たんだ」 「………!」 彼の上体が跳ね起きる。 その言葉が秘める意味に彼もデルフも気付いたのだ。 だがデルフは口を挟まない。 コルベールは相棒に話し掛けているのだ。 そこに茶々を入れる余地など無い。 「こちらの世界に来た“竜の羽衣”は二つ。 一つは今、私達が持っている物。そしてもう一つは日食の中に消えたそうです。 もしかしたら…元の世界に戻れたのかもしれません」 かつてコルベールが言った言葉は実現しつつあった。 それが自分の為と信じ彼は力を尽くしてくれた。 喜ぶべき事だって分かってるのに何故か辛かった。 帰る方法など見つからなければ良いのにと思っていたのかもしれない。 そうすればこの世界にいる事を悩むなくて済むのに…。 苦悩する彼の心境を察してもなおコルベールは続ける。 「本当の事を言うと、これは私自身の為にしているんです。 私が君の元いた世界に行ってみたい…そんなワガママなんですよ」 何故?と不思議そうにコルベールを見つめる。 優しげな表情は変わらないのに、彼の顔がどこか悲しそうに映った。 「そうですね。君にとって此処は“楽園”なのかもしれない。 そんな場所から出ていくなんておかしいと思うのも無理ないでしょう」 心配しているように見えたのかコルベールの手が彼の頭を優しく撫でる。 ちょっと薬品の匂いがキツイ大きな手に視界が塞がれる。 むぅと少し離れようとした瞬間、冷たい声が響いた。 「でも此処は“楽園”なんかじゃないんだ」 背筋がゾクリと震えた。 最初は誰の声か分からなかった。 それが自分の良く知る人物から発されたとは思えなかった。 コルベールはそれだけ告げると背を向けて立ち上がる。 「次の日食までには“竜の羽衣”を飛べる状態にしておきます。 それまでに自分の答えを導き出してください。 最良の選択肢が常に最高の結果を招くとは限りません。 だからこそ自分の意思で、後悔のない選択を」 そのまま顔を見せることなくコルベールは立ち去った。 一人残された彼の頭に最後の言葉が残響する。 空を見上げる、そこにはもう馴染みになった二つの月が浮かんでいた。 今夜はやけに空が近くに見える。 前足を伸ばせば月にさえ届いてしまいそうだ。 自由がなかった頃は想像さえつかなかった。 どこにでも行ける事がこんなにも苦しい事だなんて…。 「……誰だい?」 自室で一人、退屈を満喫していたフーケが尋ねる。 無論、部屋には彼女以外誰もいない。 窓を開けると微かだった人の気配が濃密に変わった。 「流石は『土くれのフーケ』…いや、マチルダ・オブ・サウスゴータと呼んだ方が宜しいかな?」 「っ……! 姿も見せずにコソコソと、一体何の用だい!?」 風に乗って聞こえる声が挑発的に耳に響く。 熱くなっては負けなのだが、自分の通り名どころか本名さえ知られていた。 その事が彼女から冷静さを奪っていたのだ。 「これは失礼。夜分に女性の部屋を訪れるのはいささか無礼と思ったもので」 「はん! よく言うよ、勝手に女性のプライバシーを調べておいてさ」 悪態をついてみたが形勢は宜しくない。 わざわざフーケの名を最初に出したのは脅迫だ。 もし、ここで人を呼べば自分の正体を白日の下に晒す気だろう。 「争う気はない、君をスカウトしに来た。我々は優秀な人材を求めているのでな」 「お褒めに預かり恐悦至極、とでも言うと思った? どこの組織か知らないけど名前ぐらい明かすのが筋でしょうよ」 「これは重ね重ね失礼した。我々の名はレコンキスタ。その行動目的は……聖地の奪還」 その目的を聞いた瞬間、私は笑い飛ばそうとした。 まるで夢物語のような目標を、そいつは絶対の自信を持って告げたのだ。 それが熱意なのか狂気なのか判断は付かない。 ただ学院で腐っているよりは面白そうな気がした、それだけだった。 「はぁ……暇ね」 投げ出したノートを横目に見ながら、ごろりと寝返りを打つ。 気分転換にキュルケ達の所に行ったのだが皆、留守だった。 ギーシュはモンモランシーのご機嫌取りの為だろうけど他の連中は何してんだか。 少し前までの冒険の日々が懐かしい。 戻ってきたらまたどこか一緒に探検に出掛けようか。 その妄想もすぐに尻すぼみに消えていく。 理由は簡単。あいつが傍にいないからだ。 あいつが現れてから一人で過ごす事が無くなったからか無性に寂しさを感じる。 ふと思う。もし、あいつが元の世界に帰ってしまったらどうするのか? そしたら今居るキュルケ達とも疎遠になって一人ぼっちになってしまうのか。 「やめやめ」 枕を壁にぶつけて八つ当たり。 そんな事は有り得ない。 使い魔を帰す魔法なんて無い。 そんなものは悪い想像にしか過ぎない。 目を閉じて眠りに落ちようとする彼女の耳に窓が軋む音が響く。 「……嫌な音」 まるで嵐の前兆のような風の音に、彼女は何か予感めいた物を感じていた…。
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あの時、私達は間に合わなかった。ぎりぎりのところで、彼女の魂は天に昇っていった。 「ルイズ……?」 私は涙を流しながら彼女を呼んだ。 彼女の魂はこちらに振り向いて言った。 「なんで泣くの…?私達はあいつを倒せたじゃない…それに私が死ぬのは貴女のせいじゃない。私が二人を殺したからなの…だから…」 彼女の魂は満足そうだった。自分がやってしまったことを、私達に助けられつつも、退かずに自分で解決しようと出来たからだろうか。 「さよなら…。」 私達は昇り行くルイズの魂を止めれなかった。 「ようやく…会えたわね……」 私は今、彼女の墓の前にいる。 あの事件から数年が経った。たった数年だが、色々な事があった。 一番衝撃だったのはトリステインが滅ぼされた事だろう。 トリステインはレコン・キスタと対抗するためにアンエリッタ姫をゲルマニア皇帝と政略結婚させるつもりだったが、 式の直前にレコン・キスタが旧アルビオン王国皇太子ウェールズに送られたアンエリッタ姫の恋文を公開され、ご破算になってしまった。 その後、トリステインは単身でレコン・キスタに戦ったのだが敗北、王族と多数の貴族がギロチンにかけられた。ギロチンにかけられた王族や貴族の墓は凌辱された。 彼女の実家もそういった家の内の一つだった。 あの時に彼女は死んで、良かったのかもしれない。家族や友人が処刑されていき、市中にその首を曝されるのを見ずに済んだのだから… トリステインが滅亡する前に、私やタバサを含め、ほとんどの生徒や教師はバラバラになってトリステインから逃げ出した。 タバサとは手紙のやり取りをしていて、たまに会ったりする。叔父のガリア王の元、色々な命令を受けては危険な任務を遂行している。 コルベールとは長く連絡をとっていない。風の噂によればまだ何処かの魔法学院で教師をしつつ、研究を重ねているらしい。 トリステインの動乱が収まって国勢が落ち着いてから、私は一人、彼女の墓を探して旧トリステイン王国を訪れた。 そして見つけた。元トリステイン魔法学院の敷地跡の端にひっそりと作られ、皆から忘れ去られた小さな小さな墓を。 その墓石は誰にも見つからず、淋しく、苔むしていた。 「ずっと…ずっと…会いに来れなくてごめん……一人ぼっちで…淋しかったわよね…?」 そこに眠る桃色の髪の友人に、私は涙を流しながら、静かに黙祷を捧げた。 使い魔の鎮魂歌sotto voce-fin
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「…ッ!…が…ッ!!」 「…ふにゃ……うるさぁ~~い…!」 明け方妙に音がするので寝起きが壊滅的に悪いルイズですら目を覚まし音源の方向を見る。…見たのだが、ヤバイものを見た。 「グレイトフル・デッ…」 「ちょ、ちょっと!なに寝ながら危ない事口走ってんのよ!!」 「……クソッ…!またか…」 広域老化発動ギリギリで起きたプロシュートが頭を押さえながら壁に背を預ける。 全身から嫌な汗が流れ気分も最悪というところだ。 「凄いうなされてたけど…大丈夫なの?」 「ああ…」 生返事はするものの、最近例の夢を見る頻度がかなり高くなってきていてヤバかった。 (あいつらは地獄から人を呼びつけるようなタマじゃあねぇんだがな…) 原因の検討は付いているがその手段がいまのところ存在しないのが問題だ。 「こいつはダメだな…」 結果がどうあれ、イタリアに戻りそれを己の目で確かめないことには、この夢は消えないであろうという事も。 「…邪魔したみてーだな。寝直す気にもなれねぇ…外に出てくる」 「ま、待ちな…!」 それを言い終わる前に先に外に出られた。 「もう…最近調子悪そうだし…もしかして、病気にでも罹ったんじゃないんでしょうね…」 「俺が見る限り、どっちかっつーと精神面みたいだな」 鞘から少しだけ刀身を出したデルフリンガーが答える。 「精神面?プロシュートが?…ダメ、とてもじゃないけど想像できないわ」 「んーそういう柔な理由じゃなくて、イタリアってとこにスゲー重要なやり残した事があるんだろうな」 イタリアと聞いて思い当たる事はあった。 「んで、それが夢か何かに出てきてあんな風になってるってわけだ」 「そういえば…ラ・ロシェールの宿屋で仲間が命を賭けて闘ってるって言ってた」 「そりゃあ戻りてぇだろうなぁ…」 イタリアに戻る…その言葉に戸惑う。 今のところ戻る手段は見付かっていないが、見付かればプロシュートはどうするのだろうか。 迷わずその手段を用いてイタリアに戻るのか…それともここに残り使い魔としていてくれるのか。 今のルイズの心情は非情に複雑だった。 フーケやワルドに殺されそうになった時も自分が見失っていた道を照らし出してくれたような気がしたし シルフィードの上でプロシュートが気を失って自分に向けて倒れてきた時も何故か安心感があった。 確かに、かっこいいところはある。ボロボロになりながらもワルドから助けてくれた時や、自分の魔法を信頼してくれた所も。 「…もしかして兄貴に惚れたのかぶらばァッ!」 デルフリンガーの刀身目掛け爆発を起こしとりあえず黙らせる。 「そ、そんなんじゃないわよ!たた、確かに頼りになる所もあるし何回も助けてもらったけど!考え方が妙に物騒なのが問題よね…誰にでも遠慮しないし」 初対面のキュルケや、今は亡きギーシュ。そして姫様にすら容赦しなかった。 「メイドの娘っ子と馬で出かけた時に俺をハムに刺しといてよく言うわらば!」 「だ~から!好きとかそんなんじゃないつってんでしょ!」 「…じゃあなんなんだ?」 「分からないけど…こう…」 「こう?」 「結構頼りになるし…『成長しろ』…とか言ってくれるし……年上の…兄妹…みたいな…」 「あー、つまりアレか。『お兄様』って呼びたいわけダッバァァァァアア!」 三回目の爆破によりデルフリンガーの口を封じる。 「し、知らないわよ!わたしだってエレオノール姉様とちぃねえ様しか姉妹が居ないんだから!!」 そう叫びベッドに潜り込んだが心臓の鼓動音がやたら大きく聞こえて中々寝付けなかった。 (イテェ…本気で折れるかと思った…しかしまぁ…俺も『兄貴』って呼んでるから分からないでもねぇが) 「戻る方法が見付かってるわけでもなし…八方塞ってやつか」 日が出て明るくなってきた頃、プロシュートが一人庭を歩いている。 「ジジイが30年前に会ったヤツは…どうやってここに来たんだ…? 使い魔としてなら本体ってわけじゃねぇが呼び出したヤツも……いや、オレが良い例だな。常に行動を共にしてるとは限らねぇ」 そうして思考の渦に漬かりきっていたので後ろから近付く気配に気付けなかった。 「わっ!」 「ハッ!?………向こうじゃ攻撃されてんぜ…オメー」 「この前、驚かされたお返しです」 後ろからシエスタが大声で驚かすという古典的な手段だったが、一瞬列車内でブチャラティに奇襲された事を思い出し攻撃しかけそうになった。 が、スタンド使いは居ないと認識していため何とか踏みとどまる。 「で、わざわざオレを驚かせるためだけに、こんな朝っぱらからきたってわけか?」 「あ!いえ…お洗濯物を洗いに行くところでお見かけしたので…その、この前のお礼もしてませんでしたし」 「礼される事をした覚えはねーな。アレはモット伯と護衛のメイジの問題なんだからよ…」 その言葉には『バレるからあまり話すな』という意味が含まれているのだが、そこは一般人であるシエスタ。謙遜してるようにしか受け取れない。 「そんな!助けていただいたのは事実ですし、もう少し遅ければ………」 モット伯に胸を揉まれていたことを思い出すと赤くなり口ごもると同時にゾッとした。後2~3分遅ければ洒落になっていなかっただろうから。 俯き加減にもじもじしながら何か小さく言っているが、このまま待っても時間がかかりそうだったし何よりまぁ言いたい事もあったのでとりあえず軽く一発叩く事にした。 「大体だ、連れてかれる三日前にそういう事があんならオレかルイズあたりに言ってりゃもっと楽に済んでんだよ。人質が居ると居ないとでは大分違ってくるんだからな…」 かなり綱渡り的任務だったはずだ。 最初の時点で、衛兵が金に釣られなければその時点で失敗。 モット伯が部下の顔を全て把握していれば、魔法を使われか叫ばれるなりして他の連中にこちらの存在がバレた可能性もある。 そして、殺害ではなく捕獲命令を出していれば老化させていたとはいえ、アレがモット伯だとバレるかもしれなかった。 正直、よくこうも上手くいったものだと思う。 本来、攻めでこそ本領が発揮される能力であり、こういう守り・奪還に適した能力ではないのだ。 「……す、すいません…」 言いながら恐る恐る顔を上げたが、予想に反してプロシュートの顔は苦笑いだった。 「……怒ってないんですか?」 「これがペッシならブン殴ってるとこだが…まぁオメーはギャングでもメイジでもねーしな。今ので勘弁しといてやるよ」 「す、すいません」 「……もう一発か」 「へ?あの…?うひゃぁぁぁぁ」 「いたた…それで、その…お礼なんですが」 「…オメーも結構しぶといな」 シカトして戻っちまおーかとも思ったが目を見て止めた。 何かに似てると思ったが…借金だ。それも金利がバカ高いやつ。 借金なら色々な手で揉み消せない事も無いが礼を揉み消すというのもなんなので早い段階で清算しておく方が良策だと判断した。 (後にすればするほど膨れ上がって収拾が付かなくなるタイプだな…) 「そうだな…この前オレんとこの故郷の話したからオメーのとこの話聞かせてくれりゃあそれでいい」 「わたしの故郷ですか?タルブの村っていって、ここから、そうですね、馬で三日ぐらいかな…ラ・ロシェールの向こうです」 「三日?えらく遠いな」 「それでも、もっと遠くから来ている方もいますし。何も無い、辺鄙な村ですけど… とっても広い綺麗な草原があって、地平線のずっと向こうまで季節ごとのお花の海が続いて、今頃とっても綺麗だろうな…」 (ダメだな…いいとこ麦畑しか浮かばねぇ) 花畑に立つ暗殺者というものほど矛盾した存在はあるまいと失笑気味だが、自分自身が常に死の中に居る。 生き方的な問題だけではなく、能力的な問題だ。生物なら全て無差別に朽ち果てさせる能力。 花畑なぞに入っても自分の周辺だけその花が枯れ果てている姿を想像し思わず自嘲的な笑みが零れた。 それを見たシエスタだが、その笑みが普通に微笑んでいるようにしか捕らえられずさらに話を続ける。 「この前、お話してくれた…そう!ひこうきとやらで、あのお花の上を飛んでみたいんです」 「勘違いしてるようだが言うが、鳥程自由には飛べねーからな」 目を輝かせるようにして思い出話に浸っているシエスタだが 村に来て欲しい事、草原を見せたい事、ヨシェナヴェなる料理がある事。まぁこれはよかった。 「………プロシュートさんはわたし達に『可能性』をみせてくれたから」 「可能性を見せた…?くだらねぇな…」 「く、くだらなくなんかないです!わたし達なんのかんの言って、貴族の人達に怯えて暮らしてて そうじゃない人がいるってことが、なんだか自分の事みたいに嬉しくて…わたしだけじゃなく厨房の皆もそう言ってます!」 「可能性ってのは、自分自身ががそこに向かい成長しようと意志さえあればいくらでもあんだよ。他人の成長を見ても自分の可能性ってのは掴めるもんじゃあねぇ」 同じスタンド使いがいねぇようにな。 さすがに、スタンド使い云々に関しては口に出さなかったが。 「…難しいですね」 「簡単に分かりゃあ誰も苦労しねーよ。ここのマンモーニどもも、魔法が使えるってだけで分かってねぇのが殆どだしな」 「また、今度…それを教えてくえませんか?」 これがペッシとかならギャング的覚悟を叩き込むのだが、この場合はどうしたものかと悩んだ。なので一応の答えで場を濁す事にしたのだが…それが不味かった 「オレの分かる範囲でなら…な」 肯定と受け取ったのかシエスタさんのスイッチが入ったご様子。 「是非お願いします!あ…でも、いきなり男の人なんか連れていったら、家族の皆が驚いてしまうわ。どうしよう… そ、そうだ。旦那様よって言えば…け、結婚するからって言えば皆、喜ぶわ。母様も父様も妹や弟たちも……」 ……… …………… (シエスタは…『壊れた』のか…?いや違う…ッ!こいつは『素』だッ!明らかに『素』の目をしている……ッ!) 今にもシエスタの後ろに効果音とかが現れそうだったが、引き気味にそれを見ていたプロシュートに気付いて我に返って首を振る。 「あ、あはははは!ご、ごめんなさい…!そ、そんなの迷惑ですよね…あ!いけない!お洗濯物を洗いにいかないと…それじゃあ失礼します!」 「…手遅れか…トイチってとこだな」 収拾が付かなくなる前に清算を済ませるつもりだったがスデに金利が膨れ上がり手の付けられないとこまで突入している事にようやく気付いた。 まぁかなり前から手遅れなのだが、それは兄貴。 誰でも対等に扱おうとするが故に平民と貴族が区別されているここにおいては、それが類を見ない事である事に気付けてすらいない。 少し引いていたが、今はイタリアに戻るという事が最優先事項だ。 リゾット達がボスを倒しているのなら、その姿だけ見届けどこかに消える。途中脱落した自分にそれに加わる資格は無い。 だが、もしリゾット達がボスに敗れ全滅しているのなら…成すべき事は一つ。 「…考えたくはねぇが…ボスにその報いを受けさせる…ッ!」 死んだ事になっているのならば少しはボスの事も探りやすくなるはずだ。 暗殺チームの誇りと矜持に賭けて、それこそ『腕を飛ばされようが脚をもがれようが』何があろうとボスを殺す。 だが、現状は戻れる気配すら掴めていない。 「チッ…戻れる当てがねぇのにボスを殺す事なんざ考えても意味がねぇな」 そう呟き、頭を掻きながら空を見上げると、その事は一時頭の片隅に追いやり今は使い魔としての任務を果たすべきだと切り替えルイズの部屋に戻った。 そろそろルイズを叩き起こそうとドアを開けながら声をかけたのだが、反応は実に意外だったッ! 「起きろ」 「え、ちょ、ちょっと待ちn」 「珍しく起きてんのか」 特に気にした様子もなく後ろ手でドアを閉め視線を部屋に向けると…着替え途中で産まれたばかりの状態一歩手前のルイズが固まっていた。 「……ぅぁ…っぁ…ぁぁ……」 「ようやく自分でやる気になったか…まぁ今までやらなかった方がおかしい事だったんだが」 特に気にした様子も無く、デルフリンガーと新しいスーツの上着を掴むと外に出るべく固まってるルイズに背を向ける。 普通なら、まぁ見た方が焦って慌てながら後ろ向いてしどろもどろになって逆にいい感じに発展するというのが王道パターンなのだが この場合、一片の動揺すら見せず何時もと同じような扱いをしたのが『逆に』不味かったッ! もっとも、この前まで着替えさせていたというのに急に変えろというのが無理がある事なのだが。 「……み…み…みみみみ見た…見たわね…?」 「あ?この前まで着替えやらせといたマンモーニが何を今更」 気だるそうにかつどうでもいい風にそう答えたプロシュートにルイズの何かがキレかかった。 「…って…出てって!」 「今やってんだろーが…ま、自分でやる気になったんだから少しは『成長』したんだろうな。褒めといてやるよ」 この場合当然、精神的成長なのだが、キレかかっているルイズは、まぁその何だ、肉体的な意味の成長と受け取ったらしい。主に胸とか。 「……だだだ、誰の胸がすす、少ししか成長してないですってぇーーーーーーーーー!!」 「…なッ!誰もんなこたぁ言って「兄貴…そりゃ俺もそう思うが本人の前で言うのはヒデーと思うぞ」」 否定する前に空気の読めないデルフリンガーの一言。これで完全にルイズがキレた。 「で、出てってーーーーーーーーーー!!」 ドッギャァーーーーーz____ン 「なによ…見ておいて…いつもと変わりないなんて…わたしを対等に見てないってことじゃない…!」 さすがに泣きはしないが、信頼していると言われていたのに、対等に扱って貰えないという事が今のルイズにはそれが無性に悲しかった。 一方、間一髪爆破に巻き込まれる前に部屋の外に逃げたが再び部屋を追い出される事になりプロシュートがデルフリンガーを冷めた目で見ていた。 「あ、兄貴…俺なんかマズイ事言ったか…?」 「…じゃあこれからオメーがされる事を説明すんのは簡単ってわけだ…さっきオレが言ってないと言っている途中で余計な事言ったよなオメー」 「あ、兄貴ィ!ま、まさかッ!!」 ……… …………… ズッタン!ズッズッタン! 「うんごおおおおおおおおおお!!!」 ズッタン!ズッズッタン! グイン!グイン!バッ!バッ! 「うんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」 ズッタン!ズッズッタン…… ゼロのルイズ―しばらく引き篭もる事になる。 デルフリンガーパッショーネ伝統拷問ダンスを食らいしばらく鞘から出てこなくなる プロシュート兄貴ー再びフリーエージェント宣言&ザ・ニュースーツ! ←To be continued 戻る< 目次 続く
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「チクショウ、まずい。まずいぞッ! これは!」 夜、フリーウェイを一台のオートバイが疾駆する。 まるで、暴走族のそれのような速度が出ているにもかかわらず、ハンドルを握る男はヘルメットをかぶっていない。『個人の自由は尊重されるべき』と、法定でその着用が義務付けられていないというのもあるが、彼の場合、そんなことを気にする余裕がないといった体だった。 むき出しの顔は筋肉が強張り険しい表情で、左目のまぶたが下がっている。上げようとはしているが上がらない。小刻みに痙攣するまぶたが、そう主張しているようだった。 「なんでこんな日に限ってバスが止まるんだ。コッチに来てからようやく手に入れたバイト、初日だっつーのによォ、クビになっちまうじゃあねえか! バイクなんか乗りたくないってのに、ヘッドライトも壊れちまってるしよォオオッ」 悪態をつくが、その表情と激しくなっている動悸、だらだらと流れ出ている汗からそのあせりようが見て取れる。ひとりごと然とした悪態も、あるいはそんなあせりを無意識に抑えつけようとしてのものか。 「ハッ、今のはァ―!」 しかしそれも無駄だったようで、不慣れなせいか、左目が開いていないことも手伝ってか、彼は降りるべきインターチェンジを見過ごしてしまった。 焦りがピークに達し、軽いパニック状態に陥った彼は正常な判断ができず、フリーウェイを逆走しようとした。減速もせずにである。 「お、おお、うおおおおお!」 このときの時速は、百と少し。当然曲がりきれず、彼のバイクは安っぽい特撮映画で使われる、怪獣の吼え声のような耳障りなスリップ音をたてながら分離帯に猛スピードで突っ込んだ。州立病院行きは免れないはずだった。 「なんだ? なんなんだあこれはぁあああ!」 衝突の瞬間、突如として彼の眼前に銀色に光り輝く鏡らしきものが現れ、バイクと彼はそれに頭から突っ込んだ。鏡は割れることなく、寧ろ彼を飲み込んでゆく。 どうやら鏡ではなかったらしい、などと彼が考える間もなく、 「うおああああぁぁああ! ……ッ……ッ!」 絶叫を最後に、彼は消えた。静寂だけが残る。 それからしばらく。彼の絶叫を吸い込んだ夜空で、闇に染まった空高くで、きらめく星々の合間を縫うようにして、 二つの星屑が長い軌跡を描いた。 一章一説 ~星屑は違う空に流れる~ 時は春。 所はトリステイン魔法学院。 堅牢堅固な城郭を思わせ、普段は見るものに厳かな雰囲気を与える校舎も、今は陽気にあてられたようで、どことなく穏やかな空気に包まれている。空には綿菓子の食いかけのような雲がひとつふたつ浮かんでいたが、逆にそれが透き通るような青を引き立てている。快晴だった。 そしてそんな晴ればれとした空の下では、轟音を伴った爆発が断続的に発生していた。 「これで53回目か!? つ、次はいつ、どこが爆発するんだ!?」「ゼロのルイズが何度失敗するか、賭けてみるのも悪くね――――ッ」「賭けてる場合かァ――! もう少し離れなきゃあやばい!」「成功のないまま終わり。それがルイズ・フランソワーズ・ヴァリエール……」 罵声と悲鳴のない交ぜになった野次が、集まっていた生徒達の方々から飛ぶ。 爆発の原因であり、『ゼロ』と呼ばれた少女、ルイズ・フランソワーズ・ヴァリエールは、十分に美人――というよりは美少女か――といえるだけの器量を備えているが、今はその顔を怒りの朱で染め上げ、いかにも気の強そうな形の整った眉は吊り上がり、鳶色の目には角が立っている。 「あんた達さっきからうるさいわよ! 集中できないじゃない! それに、そんなに沢山失敗してないわッ!」 彼女が言うように、失敗の回数そのものは二十に迫る程に留まっていたが、しかしその度に爆発である。どこがそうなるかもわからないうえ、いつ終わるかもわからないのだから、罵声はともかくも悲鳴を上げるのは仕方のないことだった。 だが当のルイズにしてみれば、それらの声によって集中が途切れることが、今は何よりも鬱陶しい。 何故なら今日は。 『使い魔召喚の儀式』 ルイズにとって、いや、ルイズ達全員にとって春の使い魔召喚は重要な儀式である。何せ進級がかかっているのだ。未だに成功していないのはルイズただ一人だったが、野次を飛ばしていた者達の中にも、少なからず今日のこの儀式に不安を抱えていた者はいる。 「まったく……!」 ルイズは度重なる爆風で顔にかかった、その特徴的な、ブロンドがかった桃色の髪を掻き揚げ、集中を取り戻すため、この儀式に臨む際に固めた意思と決意を改めて心に刻み付ける。 (予習復習は怠らず、日々の授業も欠かさない。立派な貴族に、立派なメイジになるために。召喚を成功させるため、徹夜でイメージトレーニングもしてきた。始祖ブリミルにお祈りも捧げたし、昨日の夜に偶然見つけた流れ星にも、きかっり三回お願いした。絶対に成功する。成功させるわッ!!) 努力している。神頼みもした。後は自分の力を信じればよい。それしかなかった。 目を閉じ、息を整え、杖を構える。 「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、うったえるわ! だからいい加減に、応えなさいッ!」 地鳴りがおき、風が吹き荒れ、本日累計二十回目の爆発で、半径30メイルほどが砂煙に包まれた。 「げほ、けほ、また失敗か! ここまで砂煙が届くとは、これじゃあ本当にこっちの身が危う いぞ!」「いつもいつでもうまくいかないんだから! あんたこそいい加減にしなさいよ、ゼロのルイズ!」「言っても――痛たたた目に砂が! ――無駄さ。諦める気までゼロなんだからな!」 口々にルイズを非難する生徒達だったが、ふと、奇妙な感覚に包まれた。 「……」 ルイズが固まったまま動かない。 ルイズは生来の負けず嫌いであり、また、名門公爵家ヴァリエールの生まれであることを誇りにしている。ので、からかいや侮蔑に対しては、たとえそれがほんの冗句であったとしても過敏に反応する。とりわけ、『ゼロ』という単語をルイズは嫌っており、耳にするなり内容も聞かずに食って掛かるほど だった。 ルイズを馬鹿にする者達の大半は、そうやって食って掛かってくるルイズを見て面白がるのだ。それはルイズの高名な家柄を伴って、既に学院中に広まっており、皆の習い性のようにまでなっていた。 だからこそ不自然だった。これほど自分たちがゼロ、ゼロ、と連呼しているのに何も言わず、あまつさえ顔色ひとつ変えないルイズは、有体にいえば不気味である。 しかし、何人かの生徒は気づいていた。ルイズは反応しないのではなく、別のものに意識を奪われ放心しているのである。反応できていないのだ。 舞い上がった砂煙が、春独特の穏やかながらも力強い風に巻き込まれ、掻き消えてゆく。 砂煙が晴れるに連れ、生徒達は皆、ルイズの意識を奪ったものに気づきはじめた。 「なにィィイイイイ!?」 「今起こった事をありのままに話したいが、こればっかりは本当に信じられないぞ」 「『召喚』は『成功』……していたのかよォ~」 何かが、爆発でえぐられた穴の中に横たわっていた。 ◆ ◆ ◆ 「ぐうぉッ! うおァァアアアアア!?」 激痛が、彼の意識を無理やりに覚醒させた。 熱したアイロンを押し付けられたうえにスチームを吹きかけられたような痛みと熱さだ。もちろん実際にそんな体験をしたことはないが、少なくとも、炎天下に駐車してあった黒の乗用車に、以前ウッカリ手をついてしまったときとは比べ物にならない。突然のことでもあり、その痛みがどこからくるものなのかも、彼にはよくわからなかった。 「ぐぅ、う、ううッ!」 それが左手であると認識した途端、また新たに、じりじりとした痛みが左手を襲った。見れば、奇妙な記号が浮かび上がってきている。 と、混乱する間もなく唐突にその痛みが治まった。 傷みの余韻でぼんやりとする頭をめぐらすと、城や塔、奇妙な出で立ちをした集団、月面のようにクレーターだらけの風景が目に入った。自分の乗っていたバイクを、何者かは知れないが、これまた奇妙な出で立ちの男がいじくっているのも見える。 そこで、周りの喧騒にも意識が向くようになった。 「見ろよ、やっぱりどう見ても平民だ!」 「しかもなんだ? あの服は。乳牛の皮でも被っているのか?」 「あんなに時間かけて召喚した使い魔が平民とはな。さすがはゼロだ!」 ドッと笑いがおこり、そんな笑いをかき消すように、実際本人はかき消すつもりで、桃色髪の少女が顔を真っ赤にして声を張り上げた。 「あんた達しつこいわよ! なんか恨みでもあるわけ? それに今ゼロって言ったの誰よ! 三歩前へ出なさいッ!」 恨みといえば二十回分の爆発の恨みだろうが、怒鳴り散らすルイズの剣幕に、笑い入っていた彼らの声も多少控えめなものになる。控えめになった分、内容の質は悪くなった。 当然ルイズは気がおさまらないようで、ボーっと座り込んでいた男に向かって、ズイっと足を踏み出すと、怒り顔で、八つ当たりのように言った。 「それよりもあんた誰!?」 「なんだ? オレか?」 「会話が成り立ってないわ。質問をしているのは私。誰かと訊いてるのよ、あんたの名前!」 「……リキエル」 いまだ状況が掴めず思考の処理が追いつかない彼は、聞かれるまま、唸るように自分の名前を口にした。 しかし聞いたわりに、当のルイズはそんなことは特にどうでもよいのか、顔を赤くしたまま、なにやらぶつぶつと呟いている。よくよく見れば、どういうわけか涙目だ。 「馬鹿にしてッ! 私だってやり直したかったわよ。なんで平民なのよ……。しかもその平民相手に私のファ、ふぁ、ファ~~~スト……うううっ! 飛びたいわッ」 そんな呪詛を吐くルイズと座り込んだままのリキエルのもとに、ツカツカと歩み寄ってくる中年の男がいた。どこか疲れたような表情と生え際の後退した頭髪とがあいまって、だいぶ老けた印象を与える。バイクをいじっていた男だった。 彼はリキエルの左手をひとしきり観察すると、憤懣やるかたなしといった風情のルイズに向き直り、笑いかけた。人の心を落ち着かせるような、穏やかな笑みである。 「ふむ、珍しいルーンだが、召喚も契約もうまくいったようだね。ミス・ヴァリエール、おめでとう」 「……ありがとうございます。ミスタ・コルベール」 ルイズはやはり納得がいかないようだったが、それには気づかないのか、あえてそういうふりしているのか、コルベールは満足気に頷くと、その場にいた者達に教室へと帰るよう促しはじめた。どこかそわそわしているようにも見受けられる。 「はは、がんばれよゼロのルイズ、お前は徒歩だァ――ッ」「飛んでみなよ、さ、あんたにできるならね!」「ゼロが? まさかだろ! 『フライ』も『レビテーション』もまともに使えないんだぜ?」「成功のないままおわ――」「お前それさっきも言ったろう」 彼らはマントを一様に翻し、口々にルイズを嘲りながら空を飛び、去っていった。 その光景はリキエルにとって異常なものだったが、立て続けに強い衝撃を受けた彼の脳は、混乱する間もないを通り越し、考えることそのものを拒否していた。だから彼は冷静で、見上げた空に薄っすらと浮かんでいた月がふたつあったことにも、心が動かされることはなかった。 「と、ところで君。ああ、あのき、奇妙な道具――だろうか? あれをその、しば、しばらくの間このわたしに預けてはくれないだろうか。いやなに! 悪いようにはしないよ少しばかり解たゲフンゴフン細部を調べたりするかもわからないが固定化もかけるしなんなら料金を払うにもやぶさかではないよしかしあれは一体何なのだねいやはやあんな金属の感触は初めてだしああ早く研究してみたいが今取り掛かっている研究も捨てがたくておっとまだ拝借の許可を得ていなかったねというわけでやはりあれをわたしに預けて欲しいのだがかまわんねッ!」 「はあ……どうぞ」 自分の乗っていたバイクを指差しながら、興奮気味を少しばかり通り越した勢いでコルベールが詰め寄ってきても、気の抜けたような返事を返すばかりである。 地団太を踏んでいたルイズが怒声を浴びせるまで、リキエルはぼんやりと、ただ空を見上げているだけだった。
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学院! メイジとメイド その② 四系統のどれにも目覚めていない落ちこぼれ。 ドット、ライン、トライアングル、スクウェアというランクのうち、 一番下のドットにすら及ばない、魔法は使えるけど必ず失敗するメイジ。 成功率ゼロ。だからゼロのルイズ。 そして――メイジの実力は召喚される使い魔にも反映されるらしい。 それを聞いた承太郎は約五十日の旅で得た『自信』ってやつがぶっ壊れそうだった。 「ちょっと! 私の使い魔と何してんのよ!」 授業終了後、承太郎がキュルケからルイズの話を聞いていると、 ルイズ本人が不機嫌ですと顔に書いてやってきた。 「別にー、あんたの二つ名を説明して上げてただけよ」 「よ、余計な事しないで! こいつは私の使い魔なの! こいつに物事を教えるのは私だし、面倒を見るのも私なんだから!」 「プッ、アッハッハッ。その使い魔に面倒見てもらおうとしたのは、 いったいどこのどちら様かしら? ゼロのルイズ」 「ど、どういう意味よ?」 「この平民に、下着の洗濯を頼んだんですってね」 「それが何よ。下僕がいるんだから身の回りの世話を任せるのは当然でしょ?」 「でも、若い女が、若い男に、下着まで世話をさせるだなんて……はしたないわ」 「ははは、はしたないー!? それをあんたが言うの!?」 「いくら私でも、好きでもない男相手に下着を見せても触らせないわ」 見せるのはいいのか、と承太郎は呆れた。 この世界の貴族というのはとことん慎みというものとは無縁らしい。 「これはもう貴族とか平民とか関係なく、レディとしての常識よ常識」 「あああ、あんた! キュルケと朝何か話してたと思ってたら……!」 ルイズの矛先が承太郎に向けられる。 「……言ったはずだぜ。寮や学院の事を質問していたと」 「それが、何で私の命令をキュルケに報告してんのよ!」 「…………」 承太郎が黙っていると、キュルケが口出しをしてきた。 「こいつが『洗濯は自分でするのか?』なんて私に訊いてきたから、 ちょっと事情を訊ねてみただけよ。 まさかあんたが使い魔に下着を見せびらかしてるなんてねぇ」 「ちちち、違うわよ! それに、こいつ使い魔だもの! 平民だとか男だとか以前に、使い魔なの! だからいいの!」 「平民にも使い魔にも性別くらいあってよ? ルイズったら殿方にモテないからって感覚狂ってるんじゃない?」 「あんたみたいな節操なしと一緒にしないで!」 「負け犬の遠吠えがうるさいわね。 食事に遅れるから私はそろそろ行くわよ」 キュルケはルイズいじめに飽きたのか、それとも単純にお腹が空いたのか、 喧嘩を打ち切ってルイズの横を颯爽と通り過ぎ、くるりと振り向き承太郎を見る。 「ルイズの使い魔が嫌になったら、私のところにいらっしゃい。 あんた顔がいいから、特別に私の召使にして上げてもよくってよ」 「……悪いが遠慮しとくぜ」 「あ、そう。じゃあね」 所詮平民とキュルケも思っているらしく、 承太郎に断られてもたいして気に留めず教室を立ち去った。 そして残されたルイズは、承太郎の頬にビンタしようとして、 身長が届かずジャンプして飛び掛り、承太郎がヒョイと避けて、ズデン。 前のめりに地面に突っ伏した。 「……大丈夫か?」 「何で避けるのよ!?」 ルイズは理不尽に怒鳴った。 結局ルイズは器用に避ける承太郎を殴るのをあきらめ、教室を出た。 食堂への道中、ルイズは承太郎の表情の微妙な違和感に気づく。 「なに不機嫌そうな顔してんのよ」 キュルケにからかわれて不機嫌全開のルイズに鏡を見せてやりたいと思いつつ、 承太郎は自分が不機嫌なのを否定せずに冷たい口調で言った。 「てめー……メイジだの貴族だのと威張ってたくせに魔法を使えねーのか」 「ちち、違うわよ! 魔法は使えるけど……し、失敗するだけだもん!」 「それは使えねーのと同じだぜ。 貴族ってのは魔法が使えなくても口先だけで威張れるもんなのか?」 「うっ……」 「威張るだけの能無し野郎は俺の故郷にもいたが、はっきり言って気に食わねぇ。 てめーが女じゃなかったら気合入れてやってるところだぜ」 「ののの、能無しですって?」 「貴族だメイジだというだけで平民を見下すような奴は……俺が貴族として認めねぇ」 承太郎の言っている事は、ルイズにとって痛いほど解る事だった。 自分はメイジなのに、貴族なのに、魔法が使えない。 だから学校のみんなから認められない。 だから家族から認められない。 だからゼロと呼ばれる。 それでも精いっぱい貴族として恥じない生き方をしてきた。 貴族の誇りを守ろうと、一生懸命。 けれど、その努力はやはり……誰からも認められない。 それはとても悲しくて、さみしくて、苦しくて、悔しかった。 平民に、それも己の使い魔から自分の一番のコンプレックスを突かれ、 ルイズは泣きそうになり……でも貴族としての意地が、それをこらえさせて……。 「ジョータロー! あんた、ご飯抜き!」 こんな事しか言い返せない自分が、とても情けなかった。 ルイズが承太郎に叫んだ場所は、ちょうど食堂の前だった。 ルイズは逃げるように食堂に飛び込んでいく。 そして承太郎は……食堂に入らなくては昼食を盗めないという事で溜め息をついた。 「あの……どうかなさいました?」 そんな承太郎に声がかけられる。振り向くとメイドの格好をした素朴な少女の姿。 彼女の黒髪を見て、そういえば黒髪の人間はこっちの世界じゃあまり見かけないなと思った。 「いや……何でもねえ」 「あなた、もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう平民の……」 平民という言い草に承太郎は『またか』と軽く落胆した。 「……おめーも魔法使いなのか?」 「いえ、私は違います。あなたと同じ平民です。 貴族の方々をお世話するために、ここでご奉仕させていただいてるんです」 「……そうか」 「私はシエスタっていいます。あなたは?」 「承太郎だ」 「変わったお名前ですね……。それで、ジョータローさん。 こんな所でどうしたんです? 本当に何もお困りでないんですか?」 「……実を言うと威張りちらした貴族様に飯を抜かれちまってな」 「まあ! それはおつらいでしょう、こちらにいらしてください」 承太郎はこっちに来て初めて出会った貴族以外の人間、 平民のシエスタの対応を見て、ようやくまともな人間が見つかったと思った。 戻る 目次 続く
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次の日、私はまた薬を飲んでいた。 飲む。ひらすら飲む。ただ飲む。とにかく飲む。 そしてついに飲みきった。 私は打ち勝ったのだ。緑色の秘薬に!何一つ顔色を変えず飲みきったのだ! その後すぐに渡されたさらに色の濃い秘薬はポンフリーに投げつけたくなった。 ポンフリーが言うにはこれを飲まないと衰えた筋肉や傷ついた筋肉が元に戻らないらしい。 もう一回薬を見る。濃い、色がさっき飲んだ薬より濃い。毒薬にしか見えない。 ……我慢だ。これを飲めば明日から普通の生活に戻れるのだ。ここは我慢して飲むべきなのだ。『幸福』になるためには健康な体が必要不可欠だ。我慢するしかないのだ。 口元に近づける。匂いがしない。入っている容器を揺らしてみる。波紋一つ起こらない。 容器を傾けるとゆっくりと垂れてきた。おい。おいおい、これって、 「粘液じゃねえか!」 ねっとりした濃緑の粘液だよ!本当に薬かよ! ポンフリーのほうを向くともういなくなっていた。 「おい、デルフリンガー。ポンフリーは何処に行った……」 デルフに聞いてみる。 「知らね。気がついたらいなくなってたぜ。それより相棒、昨日みたいにデルフって言ってくれよ」 デルフの言葉を黙殺し部屋を見回すが誰一人いなかった。まるで初めからいなかったかのように。無責任すぎないか? 畜生ッ!飲むしかないのか!?飲むしかないんだろうな…… 死なねえよな?医者が患者殺したりしないよな? 「飲まねえのか相棒?それ飲まないとダメなんだろ?」 「お前はこれをどう見る?」 デルフに見せ付けるように容器傾ける。やはり中の液体はゆっくりと垂れる。 「……粘液だな」 「だろ?」 「でも飲まないと治らねえんだろ」 これを飲む私を励ましてくれよ。そんなことは口が裂けても言えないが。 「一気にぐっと飲んじまえば大丈夫だって」 言ったからな。大丈夫じゃなかったら投げつけるからな。 「一気!一気!一気!一気!一気!」 畜生ッ! 大きく口を開きいっきに薬を呷った。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「あ゛~~~~~~~~~~~~~……!」 窓が割れる音とデルフの悲鳴が響き渡る。結果:デルフは窓の外に投げられました。 何が大丈夫だあの駄剣がッ!死ぬかと思ったぞ!吐かなかったのが奇跡みたいなものだ! まず薬はねっとりしている。つまり口の中にまとわりつく。しかも咽喉に流れるのが遅い。ゆっくりと流れ落ちていくから咽喉越しは最悪だ! そして味だ。薬は苦い。それは初めに渡された薬からわかっていたことだ。 しかしこの薬はあの苦味を軽く超越していた。まさに苦味レボリューション。これ以上に無いというくらい苦かった。 それが水のようにスルッと口を通り過ぎるのではない。ねっとりと口の中や咽喉にへばりつくのだ。あまりの酷さに涙が零れ落ちたほどだ。 絶対苦くない薬があったに決まってる!趣味を押し付けやがって! 口の中から粘液が全てなくなるのに1時間、苦味が消えるのにさらに1時間かかった。 二度と意識があるときに飲みたくない。 ベッド寝転んで気分を落ち着かせる。気分が悪すぎる。それに腹も気持ち悪い。 寝転んでいれば楽になるだろう。 そう思い寝転んでいるとドアが開く音が聞こえた。ドアのほうに顔を向けるとそこにはルイズがいた。 手にはちょっと大き目の小包を持っている。 「調子はどう?」 あのときのように目の下に隈はなかった。それでも泣き疲れたような顔はしていた。 「ちょっと!すごく顔色悪いじゃない!大丈夫!?」 私の顔を見ると駆け寄ってきて小包を足元に置く。 「心配ない。薬が苦かっただけだ」 やはりルイズらしくない。こちらの心配なんてするような奴じゃなかったのに。 「薬?」 「そこの容器に入ってた薬だ」 ルイズが容器を手に取りまだ中に残っていた少量の残りを見る。 そして何かに気がついたのか容器を傾ける。そして驚いた顔でこちらを見る。 「ヨシカゲ!あんたこれ飲んだの!?」 「あ、ああ」 いきなり大声を出し容器を突きつけてくる。何だって言うんだ? 「信じらんない。これふつう意識があるときに飲むもんじゃないわよ。効果はすごいけど意識がないと飲めたもんじゃないし」 ポンフリー、ここまで徹底的にやられるとある意味清々しいよ。だからといって許すわけではないが。 「で、何しに来たんだ」 それにしてもルイズを見ると後悔の念が沸々と湧き上がってくる。 どうしてもっと早く殺さなかったんだろう。どうしてワルドに拘っていたんだろう。ルイズを殺してからワルドを殺してれば今頃自由だっただろうにな。 これで明日から雑用に逆戻りか。 「ご主人様が使い魔の心配をしたらいけないの?」 「いや、そんなことは無いが」 「それに渡すものがあるのよ」 そういうとルイズは足元においていた小包を開ける。 そこから出したのは、 「私の服じゃないか」 言葉通り私の服だった。そういえば別の服になってるな。そこまで気が回らなかった。 「破けたりこげたりした場所を直しといたわ」 そういって服を渡してくる。偉そうに言うがどうせお前が直したわけじゃないだろ。 そう思いながら服を受け取る。見た目は殆ど変わってない。ちょっと光の跳ね返り具合が変わっているだけだ。 その部分を触ってみる。凄くスベスベしていて明らかに材質が違うことがわかる。もっと材質を近づけようとは思わなかったのだろうか。 懐の部分を探ってみる。あれ?銃はどこだ? 「それとこれ」 そういってルイズが渡してきたものは銃だった。 「服の中に入ってたわよ」 「ありがとう」 そう言って銃を受け取る。これが無くなっていたらどうしようかと思ったぞ。 「それって何なの?」 「お守りさ」 ルイズの問いに適当に返す。 これが何なのか知らせる必要はない。そういえば弾はどうした。これアルビオンに行くときに敵に撃ったはずだから弾を補充しなけりゃいけないんだぞ。 まさかあの道中どこかで落としたのか!? ん?よく考えてみればもっていった記憶が無い。つまりルイズの部屋にあるのか。よかった。 でももしルイズ殺しが成功していたら弾はごっそり無くなっていたという事か。その点については失敗してよかった。 「そ、それでね。あのね……」 ルイズは何かを言おうとして口ごもる。 何だよまだあるのか?もう渡すもん渡しただろう、だったらさっさと帰ってくれないか? 「き、聞きたいことがあるのよ!」 「聞きたいこと?」 ルイズの瞳を見る。顔は赤かったが、その眼は真剣なまなざしをしていた。 ……どうせ碌な事じゃないから帰ってくれ。
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『青銅』のギーシュ③ ブチャラティとギーシュ!戦いはいよいよ佳境に入るッ! 「さあ・・・厄介な状況になって来た・・・・。」 ブチャラティは状況を冷静に分析する! (奴の性格上、隙だらけで多少臆病だと思ってこれまで少々甘く見ていたが・・・。 もう今の奴にその隙を突く作戦を立てても無駄なようだ・・・。) 一方ギーシュ。 (考えろ・・・。彼を倒す手立てを・・・。必ず何か、彼を倒す方法があるはずッ! まず・・・自分を優位に立たせなくてはならない。怯まずに叩くッ!) お互いの体制は整ったッ!! 「いけッ!僕の"ワルキューレ"!!!」 「"スティッキィ・フィンガース"!!!」 ドゴォ! ダダダンッ! お互いの拳がぶつかり合った! 「見ろ!平民の"打撃"のほうが押してるぞッ!!」 ギーシュはさらに脳にエネルギーを送るッ! (やはりまともに当たってはあっちが上手だ・・。パワーも上なのがすごいが、 もう一つ、ワルキューレの攻撃を完全に上回る『スピード』も厄介ッ!!) "石礫"を放ちつつ、一歩、また一歩下がりながらギーシュは考えるッ! (ほんの・・・わずかでいい。動きを止めて、一気に畳み掛ける機会を作るんだッ! 僕なら、どうやれば動きは止められる・・・?) ブチャラティは少しずつ追い詰めながら疑問に思う。 (おかしい・・・・。さっきと違い、あまりにもあっけなく踏み込めている・・。 何か、策を練ったか・・・・?) その時、ギーシュは口を開く! 「3日前の天気は『大雨』。2日前の天気は『雨のち晴れ』。」 「・・・・・!?」 ブチャラティは立ち止まるッ!! 「なんだ・・・・?」 「昨日は『快晴』。そして・・・・本日も・・『快晴』・・。」 「天気予報なんて始めてどういうつもりだ・・・?」 「『予報』ではないさ。これは過去の天気の情報、『記録』だ!ワルキューレ!」 ワルキューレが再び突進! 「またワルキューレ・・・?」 ブチャラティが即座に破壊ッ! 「コレと『天気』とどんな関係が・・・?」 「前を向いてていいのかい!?」 ギーシュが空に造花を!その先には・・・・・巨大な石礫ッ! 「さっきより・・・・デカいッ!!」 ドドンッ!! ブチャラティの真上に大岩が飛ぶッ!! 「上空からの攻撃!?」 「『一時』・・・・・。」 続いて小さく、なおかつ速い石礫が大きな礫に向かう!! 「『石の雨』にご注意を・・・・!」 バリンッ! ズダダダダダダダダダダ!!!!!! 「ぐおおおおおおおおおああああああ!!!!!」 降り注ぐ物ッ!それは石礫の雨ッ! 上空の大岩にさらに石礫をぶつけ適度に粉々に割る事で、石礫の雨を降らせたのだッ! それは絶えることなくブチャラティを容赦なく襲う! ズシィ!ドゴォ!バキィ! 右肩ッ、背中ッ、左膝ッ!辛うじて頭を防ぐが、ダメージは甚大だッ! 「クラスター爆弾と同じ要領だ・・・。上空に放ったミサイルからさらに小さな爆弾を大量に落として より広範囲を攻撃するアレと同じッ!」 さらに石の雨は容赦なくブチャラティに降り注ぐ!! 「これ以上は・・・・やらせるかああああああ!!!!!」 ブチャラティがスタンドでギーシュに打ち返す! 「そう来る事は・・・・予測済みだッ!」 ギーシュが呪文を唱える!その先には"石の柱"が! 「これで君の攻撃を防ぎきって・・・。」 「開け!ジッパー!!」 パカッ! その時!空中で石が開いた! 「なっ!しまった!」 ミシィ! ギーシュは不意を突かれ、避けられなかったッ! 「ぐっ!うう・・・。石にジッパーを貼り付けて・・・空中で・・・!」 間髪いれずブチャラティが駆け出す! 「ワルキューレ!」 ギーシュがまた花びらから人形を生み出す! 「ダメだギーシュ!このコースは・・・『直線』はマズイッ!!」 ギャラリーが叫んだ時は時すでに遅しッ!ブチャラティはまたワルキューレにジッパーを! 「もう一度・・・くらえっ!!!」 再び破片がギーシュを襲う! 「大丈夫だ・・!この柱で防ぎきってみせ・・。」 バキンッ!! 予想外ッ!柱は一発目で砕け散ったッ!! 「なっ!しまった!」 間髪いれず二発目が来るッ! 「ギーシュ!避けるんだぁ~~~ッ!!」 だがギーシュは! 「・・・・・・・・・・・。」 微動だにしないのだっ! 「な・・!何やってるんだぁ!?」 ミシィッ!! 「・・・・うぐっ!!」 続いて三発目ッ!! メリィッ!!! 「ぐっ!!・・・・ぐぅ・・・。」 四発目ッ!五発目ッ!六発目ッ!! ドコッ!ボカッ!バキッ!! 「うわあああああああ!!!!!」 ギーシュはとうとう後ろに吹っ飛んだッ!! バッタァァン!! 「スゲェ・・・・!もしかして本当に『ゼロのルイズ』の使い魔が勝っちまうのか・・・?」 「ギーシュ・・・。なんで・・・?なんで避けなかったんだッ!?」 「『避ける』?そんな事はできない。 もしここで避けてしまったら・・・ここから動いてしまったならッ!! 彼はこの『ライン』を通ってこないッ!・・・大丈夫だ・・。いいぞ! その位置が・・・彼の渡っているその『ライン』がすごくいいっ!!」 ギーシュは腹を抱えながらも杖を突き出す。 「一体何を・・・!?」 そう言ったブチャラティ。だがその時ッ!! グチャッ!! 「何ッ!?」 足に違和感ッ!"ぬかるみ"だ!ブチャラティはぬかるみに足をとられた!! 「今だッ!!"錬金"!『ぬかるみを石に変えるッ』!!」 ドリュゥン!! ブチャラティの足が完全に石で埋まるッ! 「こ・・・これはッ!!」 「そして・・・無駄にワルキューレを破壊したのが災いしたな・・・! もう一度錬金ッ!『青銅で・・・!』」 ピタッ ピタッ ピタッ ピタッ ワルキューレの『破片』がどんどん足元に集まり・・・・。 ドギュゥゥ~~ン!!!! 「『足元をコーティングするッ!!』」 最悪ッ!ブチャラティの足は今!完全にギーシュの策によって動かなくなってしまったッ!! 「コイツ・・・!負傷してまでその場を動かなかったのは・・・! オレをこの位置におびきよせるためだったのかッ!!」 「そう・・・・。続けざまに雨が降れば二日ほど晴れても深いところはぬかるみが残る・・。 だからボクは戦いながらそのぬかるみの位置を把握して君を捕らえたッ!」 そしてギーシュの造花の先端にまた石礫がッ! 「・・・・そして僕はッ!君を倒すために一切の躊躇を行わないッ!! 確実!そう、確実に倒すために僕は絶対手を抜かないッ!!」 「くそっ!S・フィンガースで脱出を・・・!」 ズダンッ!! つぶては真っ直ぐブチャラティの腹部へと放たれるッ!! 「ぐあっ!!」 ブチャラティも跪く!目線がギーシュと並んだッ! 「手を抜かないと言ったハズだ!おめおめと逃がすと思うかい・・? このままトドメを・・・・!」 ギーシュが動いた・・・その時ッ! ズドンッ!! 「うごぶッ!!」 「こっちも・・・つぶて返しだ・・・!」 ギーシュが喰らったのは、丁度石礫と同じような石の弾丸だッ!! 「S・フィンガースで・・・、撃ったのか・・・!」 お互い肉体のダメージが限界ギリギリッ!決着は近かったッ! 「「・・・・・・行くぞッ!!」」 ―※― 同じ頃、ルイズはブチャラティにもらったリンゴの皮をむき、 シャリシャリと食べていた。 だがもう芯しか残らない状態になり、食べられなくなった頃だった。 「・・・・・アイツ・・・、決闘なんて・・。何考えているの・・・・?」 深く考え込んだ後、芯をゴミ箱に投げ捨てた時だった。 ガァァァァン!!!! 広場のほうから何かがぶつかり合う音が聞こえたッ!! 「・・・・!?何!?何の音なのッ!?」 何なの?と思ってから、ルイズは決闘が広場で行われていた事を思い出していた。 「・・・・フンッ!あんな分からず屋!少し痛い目にあえばいいのよッ!!」 だがしばらくルイズはうずうずしていた・・・。 「・・・・んもうッ!主人に心配かけるんじゃないわよ全くッ!!」 痺れを切らしたかのようにルイズは外に駆け出したッ!! 広場。 「たしかココで・・・あっ!」 見えたのは土煙ッ!ルイズはさらに近づいたッ! 「ブチャラティ・・・?やっぱりギーシュに・・?」 「ルイズッ!!」 呼ばれた。声の主は・・・間違えようがない。キュルケだ。 「なによ・・・。所詮アイツは平民で・・。」 「アンタ・・『一体何を』呼び出してしまったの!?」 ルイズの予想を裏返す返答! 「・・・・・え?」 「彼・・・確かブチャラティとか言ってたわよね・・。彼は何なの!?平民なの?メイジなの?」 「そうだ・・。アイツ・・・妙な能力でギーシュを・・・!」 「な・・・・え・・?」 まだ状況が把握できないルイズ。 「あっ!土煙が晴れたぞ!」 ルイズが振り返る!その先にいたのは・・・? 「ぐ・・・ゲホッ!ゲホッ!」 ギーシュだった。だがかなり弱っていた。 跪いてしまっている。もう意識を保つのでやっとのようだ! そして地面に結構な量を吐血している。 「ブ、ブチャラティは・・!?」 「フ・・フフ・・・・。」 ギーシュが口を開く。 「え・・?」 皆の視線がギーシュに向く。 「フ、フ、フフフフ・・・アッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!!!!! やった!やったんだッ!!とうとう僕は打ち勝ったんだッ!! 彼に!そして自分の『運命』に!打ち勝ったんだぁ~~~ッ!!!」 バンッ! ギーシュの高笑いにルイズの表情が凍りつく。 「え・・・・?」 そして土煙が完全に晴れる。そして目に入って来たのはッ! 最初に見えたのは地面に突き刺さっている剣だ。 そして次に見えたのは・・・・! 「あ・・・・・あああ・・・・・!!!そんなッ!」 ルイズが次に見たもの。それはその剣へと手を伸ばし、 しかしそれも叶わぬまま崩れ落ちた――――ブチャラティの変わり果てた姿だった。 「ブチャラティ~~~~ッ!!!」 「やったッ!彼は行動をとらなかった!つまり、彼は負けを認めたのだッ! ついに、ついに勝った!勝ったぞッ!!」 (クソ・・・もう・・・限界だ・・・!この戦いにかけた『覚悟』は・・・奴のほうが・・・上だった・・。 オレとしたことが・・・こんな結果に・・・。オレの・・・完敗・・・か・・・・!) 彼に一体なにがあったのか?彼は何を果たせなかったのか・・? そして、彼は本当にこれで終わりなのか?それは次回明らかになる・・・。 to be continued・・・
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ギーシュ空間とは! ひとつ、哀れなり! ふたつ、決して攻撃されず! みっつ、決して救われることは無い! よっつ、あらゆる同情や憐憫を兼ね備え、しかもそれらを無意識で行う! そしてその空間はとても居辛く、嗚咽交じりの沈黙を基本形とする。 うお!?今何か電波を受信したような気がする。なんだったんだあれは…… いや、今はそんなことを考えている場合ではない。早くこの雰囲気を何とかしなければ! ギーシュをこづいたりしてやめさせたいがあまりにも不憫すぎてためらわれてしまう。無視したいが無視できない何かを兼ね備えているがごとくその場から離れられない。 もう望みはワルドだけだ。さっきもこの雰囲気を壊そうとしたんだ。ならもう一回してくれるはずだ。何か策があるはずだ。もうこの雰囲気はごめんだ! そう思いワルドに目をやるとワルドもこちらに目線を向けていた。なにやら目配せをしてくる。何かするつもりのようだ。 そしてワルドはルイズを見やりルイズにも目配せをする。 ワルドは突然口笛を吹く。すると朝靄の中から何が出てくる。それは奇妙な生き物だった。 鷲の上半身にライオンの下半身がくっついた生き物だった。何かで読んだことがあるな。たしかグリフォンとかいう空想上の生物だ。 この世界には本当に居るのか。 ワルドはグリフォンに颯爽と跨ると、 「おいで、ルイズ」 と手招きする。 「は、はい」 ルイズはこれに便乗し跨る。そしてワルドは「さあ、きみの番だ!」とでもいう風に視線を向けてて来る。 ああ、私の番だ。ギーシュ空間が緩んだ今しかない! 「剣を忘れたからとって来る」 そう言い残し時自分でも惚れ惚れするような速さで逃げ出した。 そしてデルフリンガーをとって帰ってきてみた光景は、いくらか憔悴した顔のワルドとルイズ、そして復活し馬に跨っているギーシュだった。 どうやら二人でギーシュ空間を治めたらしい。ワルドとルイズの恨みがましい視線を極力無視し馬に跨る。 そしていつまでもこうしているわけにはいけないと思い出したのだろう。 「では諸君!出撃だ!」 ワルドが思いを振り切るように杖を掲げた! グリフォンが駆け出す。それを追うように私とギーシュも馬を走らせた。 さて、一体どれくらい馬に乗ることになるのやら……